打破僵局

再度離陸した中国語が軌道に乗ってしばらくすると、壁にあたることも出てきました。なかでも中国語を始めて5~6年目の壁は高く、なかなか越えることができませんでした。私はいらいらして突破口や気分転換のための別の環境がほしくなり、ある大学の公開講座の中国語のクラスを受講しはじめます。

教えてくださった先生は、穏やかで聡明、日本語も非常に美しいので先生の前では「結局ネイティブじゃないとちゃんとは話せないのよ」などという愚痴めいたことは決して言えません。偶然パンフをみて授業料の安さで選んだクラスでしたが、先生の人柄にひかれ、先生がご主人と他県に移られるまでお世話になりました。

さてそのクラスで、ある時文法問題をやったのです。( )にあてはまる語を選ぶといった問題で、私はかなり間違えてしまいました。問題をやっている時、答えあわせをしている時、先生はクラスを回って1人1人の様子を見てくださるのですが、私があまりに間違っていたためか、クラスが終わって帰ろうとすると呼びとめられました。

それまで私にとって文法は「暗記すべきもの」にすぎませんでした。高校の英語や大学のドイツ語がそうだったように、中国語でも文法問題ができないのは虚詞だの、慣用句だの「暗記すべきもの」をまだ頭にたたきこんでいないからだと思っていたのです。

クラス終了後、先生に呼びとめられて「今日の問題は難しかったですか」と聞かれ、私は「まだあいまいに覚えていて迷ってしまうようです」と答えました。先生は少し考え、それから「問題文を読んでごらんなさい」と言われました。

言われるままに私はプリントを出して最初の問題を声を出して読みはじめたのですが、問題の( )にさしかかった瞬間、なんと選択肢を見る前に答えが口をついて出たのです。

あッ! と思いました。

先生はにこっと笑って「次も読んでみて」と言われました。次の問題も口が勝手に答えをしゃべっていました。

その時、私はぽかーんとしていたでしょう。今までにない感覚。頭を使っている時間さえない。問題文を自分の言葉として発音しようとすると、口が勝手にしゃべってくれる。口が文法を覚えていたなんて!
先生は「あなたのレベルならこの問題は全部できると思いますよ。考えるより声に出してやってみて」とおっしゃいました。

私は家につくのが待ちきれず、帰りの電車に乗るとすぐにプリントを出してぶつぶつ読みはじめたのですが、先生のおっしゃったとおり20問ほどの問題全部に正解を出せました。うそのようですがほんとうのことです。

このあとしばらくして私は中検の準2級に合格し、高かった壁を一気に越えた感じがしました。

語学において頼りになるのは自分の身体。聴いて、読んで、書いて、話した自分自身の感覚です。そしてその感覚を確かなものに、鋭いものにしていくことが勉強なのだと今は思っています。