コンテスト

札幌でも中国語のスピーチコンテスト、暗唱大会などが開かれています。中国語教室の先生の勧めで、そのうちの1つに出場しました。

事前に思っていたよりずっと、たくさんのことを勉強したスピーチコンテスト。その体験記をどうぞ。

出場を決める

ある日、教室のテーブルにスピーチコンテストの案内がありました。何気なくみていると、先生が「出てみない?」と言います。「うちの生徒はほとんどみんな出たことがあるのよ。半年以上の留学経験があると出場資格がないから、この班で今出られるのはあなただけなの。勉強になると思うけど」

詳しく見てみるとコンテストは朗読、暗唱、弁論の3部に分かれ、ほかに外国人の日本語弁論の部があります。

「出るとしたら朗読は簡単だから、暗唱か弁論ね。弁論で1位になると全国大会に行けるの」と説明してくれる先生の声を聞きながら私の目が釘付けになっていたのは…

最優秀賞の副賞は札幌-北京往復航空チケット!

「ちょっと検討してみます」と答えたものの、航空チケットの魅力がもうしっかり私をとらえていたのでした。

さて何をやろうか

出場申し込みはある程度課題の目鼻がついてからにしようと思い、さっそくやるものを考えることにしました。

弁論は自分の言えるレベルの中国語でかまわないとすると、それほど難しくないといえます。欲張って難しい文を作っても自分のことばでなければ弁論の出来がよくなるとは思えません。これから作文して、添削してもらって、そのうえで覚えるのならば最初から暗唱にしたほうがいいような気がします。

では、暗唱にするとしたら何を…? 私の頭にふと浮かんだのはよく副読本などに使われる『一分間小説』。たくさんの中から選べるし、まとまっているから聞いていて面白い。だったら、以前通っていた教室で訳して先生に添削してもらったものが内容もわかっていていいんじゃないか。

引っ張りだしてきたのは、『中国掌編小説集』『中国掌の小説集』(相原茂 編 東方書店)。ちょっと洒落た話ばかりで気に入っている本なのです。その中でも特に好きな3編ほどをぱらぱらと読んでみましたが、子どもが出てきてかわいらしい『山路にて(在山路上)』が一番よさそうです。

覚えられるかどうかという問題の前に、5分という規定時間に対して、どれくらいかかるかを調べなければなりません。ストップウォッチ片手にとりあえず声に出して読んでみると…5分23秒かかってしまいました。『一分間小説』というからもっと短いかと思ったのに…

これはダメかなと思いましたが、好きな作品だし、この時点ですでにやっぱりこれが一番いいという気になってしまっていました。今のは初めて読んだんだし、もっと慣れてスピードを上げられればなんとかなる。

こうしてなんとも根拠のない判断で、暗唱の課題文を決めてしまったのでした。

覚える

次の問題は、もちろん覚えられるかどうかです。ピンインがついた本なので、辞書をひく必要はありません。さっそく覚え始めました。ひたすら読んで読んで、かくして言ってみて、わからなければまた見て読んで、またかくして言ってみて…というそれはそれは原始的な暗唱の方法です。

コピーをとっていつでもポケットに入れ、仕事の合間に、地下鉄の中で、おふろの中で、ひたすら読んで読んで、かくして言ってみて、わからなければまた見て読んで、またかくして言ってみて…

この『山路にて』というのは、中国の田舎の小学校の若い女の先生が2人の生徒をつれて山を越えて映画を見に行き、また山を越えて帰ってくるというだけの話です。子どもたちは無邪気に先生に頼りきっており、先生はその子どもたちの気持ちを少し負担に感じています。しかし真っ暗な山道、鳥の飛び立つ音にも心臓が止まる思いをしたのにもかかわらず、子どもたちは先生がいるから大丈夫だよと言いきり、先生の目に涙が浮かぶという筋書きです。

こんな暗唱のやり方でも繰り返しとは強いもので、何度も読んでいるうちに先生の気持ちが少しずつ変わっていく様子が感じられるようになってきました。4日もすると2、3ヵ所ひっかかりやすいところがあるものの、なんとか言えるようになっています。ためしに時間をはかってみると、5分15秒前後まで縮まっていました。

よし、これはいける!

こうしてなんとも根拠のない自信で、いよいよ申し込みにいくことにしました。

申し込み受付で

スピーチコンテストの受付事務所に行って参加したい旨を告げると、係のおじさんはとてもうれしそうに「今年はずいぶん参加者が多いんだ。もうあなたで20何人になったかな」とにこにこしています。

おじさんが申込書と課題文のコピーを点検していると、そこへ20代くらいの中国人の女の子が2人やってきました。「スピーチコンテストの日本語弁論の部に出たい」と言っています。おじさんはもううれしさで舞い上がっている様子で、手続きはほったらかしで「この人は中国語の暗唱の方に出るんだよ」と紹介してくれ、「あなた、ちょうどいいからこの課題文を読んで聞いてもらいなさい」などと言い出す始末。

しかし、人に聞いてもらうのは確かにいい練習です。とりあえずは暗唱ではなく、読み上げて聞いてもらいました。終わると、1人の女の子が「感動の話です」とぽつり。そのあと、2人でいくつか発音を直してくれ、「がんばってね」と言ってくれました。

「あなた方は弁論の内容は決まってるの?」と聞いてみると、「これから作文を書きます」という答え。私の方も「がんばってね」と言い、やっと手続きを終わったおじさんにあいさつして事務所をあとにしました。

感情をこめよう

毎日20回も30回も同じお話を読んでいると、だんだん情が移ってくるものです。

このお話では、子どもたちが繰り返して言う「先生がいるもん!」という台詞が1つのポイントです。最初はそのことばは先生にとっては負担に感じられていたのですが、最後には先生の心を動かすことになります。その違いを出したい。それに何度も出てくるので、同じような調子で言ったのでは面白くありません。

もう1つは最後の「彼女の目にふと涙があふれた」というところ。暗唱している間、感情移入しきっている私は、最後のこの文を言うと不覚にも声がふるえ、泣いてしまいそうになります。

そんなことをしては暗唱はぶちこわし。とにかく冷静にならなければなりません。そのうえで、できれば「ふと」ということばを浮き上がらせるように言えたらなあといくらでも欲が出ます。

所用時間は少し急ぎぎみにすれば4分55秒くらいで終わるようになっていました。あまり感情を込めすぎると時間オーバーになる可能性もあります。できるだけ淡々とやるに限る。

こんなふうに感情を込めようといろいろ言い方を工夫できる部分もあれば、なかなかすらっと発音できない単語というのもやはりいくつかあります。ひっかかってはやり直し、やり直してはひっかかり。弁論にすればこういうことはなかったかもしれませんが、これこそが外国語の勉強という気もするのでした。

いよいよ本番

ついに本番の日がやってきました。

受付でプログラムをもらうと、全部で30人以上の参加者。あれからもかなり増えたようです。暗唱、朗読、日本語弁論、中国語弁論の順で、私は暗唱の最後。

札幌ではいくつかの高校で中国語の授業が行なわれていますが、高校生の姿が目立ちます。かと思えば、かなり年配の参加者らしい方が課題文を復習している様子もみられ、なかなか活気がありました。
いよいよ発表がはじまると、緊張でのどが渇いてきました。お茶を買ってくればよかった…後悔しても時遅しです。なんとか乗り切ろうと思いますが、のどの渇きはひどくなるばかり。このままだと発表の途中で咳き込んだりするんじゃないかと思った頃、ついに私の出番が来ました。

演台に立つと、スピーチコンテストに出ることを知らせておいた同学の姿が見えます。さあ、がんばろう。

暗唱を始めたところからはもうよく覚えていません。最後の文も、感情移入というよりは緊張によって声がふるえていたような気がしますが、気づいたときにはおじぎをして演台をおりていました。

席に戻ると一気に全身の力が抜け、そしてさらにしばらくするとようやく落ち着いて弁論の部を聞く余裕ができました。高校生の中にもしっかりした発音の人が多く、頼もしい限り。その中の1人は特にきれいな発音で、中国語学習によって得たこと、これからの希望などを堂々と話しており、飛びぬけて上手でした。

審査を待つ間、見に来てくれた同学とお茶を飲みに行くことにして立ち上がると、記録ビデオを撮っていた人のところに所用時間の記録があるのが見えました。自分のところをのぞいてみると…4分50秒をきっており、やはりよほど緊張して早口になっていたとみえます。とはいえ、最初からみると40秒近い短縮。口は訓練すればちゃんと動くようになるものだと痛感しました。

同学に「どうだった?」と聞いてみると、「よかったよー。擬音語がすごく印象的だった」とのこと。私は気づかなかったのですが、確かにこの作品には擬音語がたくさん出てきて、朗読や暗唱に向いている作品だったかもしれません。出来はともかく、私は自分の選択にすっかり満足したのでした。

表彰される

時間になって会場に戻ってみると、「審査に時間がかかっていますのでしばらくお待ちください」とのこと。なかなか審査結果が決まらないようで、かなり待つことになりましたが、やっとそれも決まって発表です。

私は暗唱の部の1位をいただきました。先生の顔をつぶさなくてよかった。トロフィーを受け取って、なんだかこそばゆい感じです。

最優秀賞は、弁論で特に上手だった高校生。全国大会もある部門ですし、順当といえるでしょう。

中国往復チケットにつられて参加したスピーチコンテストでしたが、終わってみると、さまざまなことに気づくことができ、中国語を勉強する新しい楽しさも見つけられた気がします。
そして単純ですが…5分もある文章を覚えて人前で暗唱できたことが、少しばかり自信になったコンテストでした。